
プログラム開始の経緯
私は、音楽死生学(ミュージック・サナトロジー)をアメリカで訓練、そして認定を受けました。帰国後、日本福音ルーテル社団(現・公益財団法人JELA)より、私が学んできたことを日本人に普及してほしいと依頼を受けた時は、日本語で書かれた教材や人材がいない為、不可能だと感じました。
音楽死生学は、医学の分野に拠点を置いており、物理的に死んで逝く人にのみ適用されます。私は、医学的なトレーニングのバックグラウンドがありません。それで、JELAからの申し出を断るべきだと感じました。しかしながら、アメリカで学んできたことを独自のやり方で追求する(パストラル・ケアを骨組みとし、特に詩編の内容をはめ込む)こと によって新しい分野を立ち上げ、JELAの申し出を受けることが出来ると感じて決心しました。
音楽死生学とリラ・プレカリアの違い
リラ・プレカリア(祈りのたて琴)の方法論は、音楽死生学の働きと文脈から完全に受け継がれていますが、ウォルター・ブルーグマン著「詩編のスピリチュアリティ」を手引きとしているところにリラ・プレカリアの独自性があります。スピリチュアル に重点を置き、祈りの要素を取り入れていることから、私はこれを「ハープと歌による生きた祈り」と呼んでいます。
この2つの分野の違いは微妙だと思われるかも知れませんが、微妙な違いと感じることがとても重要なポイントです。私の尊敬する音楽死生学の先生は、この問題に関してとても繊細です。私も先生の意見に賛成です。先生の先駆的な活動を尊重したい、しかも私が教えていることは、音楽死生学から学んだことを全て教えているわけではなく、音楽死生学に基づいて教えていることなどから、異なる分野として「パストラル・ハープ」、プログラム名を「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」と名付けました。
方法論はリラ・プレカリア独自のものではありません。リラ・プレカリアの独自性とは、「今日の生きる詩編」という内容と音楽死生学の方法を一緒にしたところにあります。要するに、リラ・プレカリアはパストラル・ケアに基づき、音楽死生学は臨床医学に基づいています。
また、リラ・プレカリアは死に逝く人のみに焦点を当てていません。あらゆる年齢や状況の 人々、誰に対しても音楽を通して祈りが必要な人へ働きかけます。例えば、鬱状態の学生たちに働きかけます。生死に関係のない 患者さんへも働きかけます。しかしながら、実際の患者さんの大多数は、ホスピスや老人ホームにいる患者さんです。ともあれ、 私はこの働きが、人生の中で「新しい境地へ向かう」必要のある人に役立っているのを目撃しています。
なぜ詩編?
詩篇は、英語で「Psalms」と言い、ギリシャ語の「Psalmos」に由来します。この「Psalmos」は「弦楽器で 伴奏される歌」の意味です。これはリラ・プレカリアで文字通り実践していることです。
詩編は、旧約聖書の中で150編から成る祈りの歌で構成されています。そして、人間のあらゆる感情-称賛、信頼、恐怖、悲嘆、絶望、怒り、復讐、疑い、祝い、喜びなど、陽気な山頂から最も低い絶望の谷まで呼びかけます。その中でも嘆きの詩がジャンルとして最も数が多いのが特徴で、驚く程に人の気持ちを正直に表現し、何事も包み隠したりしていません。それらのテーマと歌詞は、過去3000年以上に及ぶソマリアやエジプトなど、聖書が作られる前の古代文明と類似しています。それ故に私は、詩編が人間の魂の普遍的な表現であると思います。
私が詩編をリラ・プレカリアに取り込んでいる理由は、宗教的な価値観からだけではなく、私たちの人生における経験を鏡として反映しているからだと信じています。
